卒業式式辞

式辞
卒業生の諸君、ご卒業おめでとう。
校庭の桜の木もあちこちで芽吹きはじめ、草花の開花がそこここに見られ、春の訪れを告げているこのよき日に、公私ともにご多忙の中を、川口市教育委員会高瀬指導主事様をはじめ、地域のたくさんのご来賓の皆様のご臨席を賜り、ここに盛大に第56回卒業式を挙行できますことは、誠にうれしく、慈に感謝申し上げ心からお礼申し上げます。
さて、卒業生諸君。君たち56期生は、私が校長として2度目に送り出す卒業生です。私にとっては誠に感慨深い卒業生であります。
諸君の卒業にあたり、私からのはなむけの話を二ついたします。
昨年、オリンピック発祥の地「アテネ」で記念すべきオリンピックが行なわれました。
その中で、日本の選手団は、水泳の北島康介選手をはじめとして「メダルラッシュ」といわれ、大活躍しました。このことは、今も我々国民の目に焼きついています。そして、日本中で歓喜しました。また、選手たちの活躍が映像で流れるたびに、この歌詞がメロディーと共に流れてきました。「ゆず」というグループが歌っているそうですが、その歌詞の一節が、何故か私の心の中 にしみわたり、感動して湧き出てきました。
「誰にも見せない涙があった、人知れず流した涙があった。決して平らな道ではなかったけれど、確かに歩んで来た道だ。あの時、思い描いた夢の途中に、今も何度も何度もあきらめかけていた夢の途中。いくつもの日々を越えて、たどりついた今がある。だからもう迷わずに進めばいい、 栄光の架け橋へと」
この詞はアテネオリンピックへ出場した選手への応援歌だと思う。選手たちもオリンピックの出場のために血のにじむような努力をしたのだろう。人知れず涙を流しただろう。あきらめかけただろう。しかし、自分の夢、オリンピック出場のためにあきらめずに進んだのだろう。
諸君、夢はあきらめずに精進すれば必ずかなう。このことをアテネオリンピックの出場選手やこの歌が教えてくれている。決して平坦ではないが、夢に向かって澄んだ瞳で努力を惜しまず進んでほしい。
そしてもう一つお話をさせていただきます。
私は、君たちが住んでいるこの日本の国が大好きです。この国に古くからある我々の先輩たちが築き上げた精神文化に誇りをもっています。その一つを紹介しましょう。
山岡鉄舟、本名を小野鉄太郎といいますが、この人は諸君と同じ15才の時に、自分の生きる指針、座右の銘
20か条をつくりました。その中に、
一、嘘を言うべからず。
二、いつどんな人に接する場合もお客様に接するような気持ちで丁寧に接しよう。
三、自分の知らないことは誰にでも習うようにしよう。
四、人には出来ることと出来ないことがある。何かが出来ないからといって、その人はダメだと決めつけたり、あざ笑ったりしてはならない。
など、自分の生き方を自分に言いきかせて生きるような人物でした。
この山岡鉄舟は、第15代将軍徳川慶喜の家臣つまり幕臣で、ご承知のように当時、日本は官軍と幕府軍に分かれ戊辰戦争という天下分け目の戦いが行なわれ、官軍の西郷隆盛によって江戸城が焼き討ちされるのではないかといわれていました。その時慶喜の命をうけ、鉄舟は一人殺気立った官軍の中を馬で突破し、静岡で官軍の司令官である西郷隆盛と会見し、命がけで話をまとめ、官軍の江戸城攻撃は避けられたということです。その会見の後、西郷隆盛は「いや、えらい人物 に出会ったものだ。命もいらぬ、金もいらぬ、名もいらぬような者は始末に困る。ああいう始末に困るような人物でなければ、ともに天下を語るわけにはいかなかった。敵ながらあっぱれである」と褒め称えたといいます。
今の日本の世相は、自分本位、わがまま、お金さえあればという風潮が横行しています。人の心を動かすのは、お金や地位ではない。無我無私の心、無償の心、私がない心が人の心を動かすのです。そのような心が、天下国家を動かすのだと、山岡鉄舟や西郷隆盛が教えてくれています。 諸君、これから向かっていく人生は厳しい。決して平坦ではない。しかし、どうか忘れないでほしい。己を無にして人に尽くすこと、このことが人の心を動かすのだということを。その心は、今も昔も変わらないということを。諸君の卒業のはなむけの言葉として送ります。
保護者の皆様、お子様のご卒業、衷心よりお祝い申し上げます。お子様の成長をみて、私がこれだけうれしいのですから、保護者の皆様の喜びはいかばかりかと拝察申し上げます。
この上は、本校で培った力を十二分に伸ばしていただき、立派な人材に育つこと心からお祈りいたしております。併せて、今まで本校の教育活動に深甚なるご理解とご協力に感謝申し上げます。 終わりに重ねて、卒業生諸君の本校卒業を祝福とともに、本日ご列席賜りました皆様のご健勝をご祈念申し上げまして式辞とさせていただきます。

平成17年3月15日
川口市立青木中学校長 坂本大典

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