「何事も 全力にて ぶつかれば 不覚あれども 道は拓ける」

  明けましておめでとうございます。昨年中は大変お世話になりました。今年も、本校教育活動には、深いご理解とご協力を賜りますようよろしくお願い申し上げます。
 生徒諸君も、保護者・地域の皆様も元旦には、今年の目標、自分のあるべき姿を思い描き決意されたことでしょう。私も決意したことがあります。それは「全力主義」です。
 「葉隠」という書物がある。葉隠は江戸時代から伝わる武士道の書として有名であり、これは、当時の佐賀鍋島藩第二代藩主光茂の側近であった山本常朝(1659〜1719年)が語ったことを、第三代藩主綱茂の側近であった田代陣基(つらもと)(1678〜1748年)が記述したものである。
 常朝は光茂の死後、僧侶となり黒土原の草庵に隠れ住んだ。その後、後輩の陣基が尋ねてきて乞われるままに、かつて見聞きした藩祖直茂(1538〜1618年)、初代勝茂(1580〜1675年)、二代光茂(1632〜1700年)などにまつわる教訓や出来事、あるいは常朝自身の見解などを7年間にわたって語ったものを田代陣基が丹念にまとめ綴ったものが「葉隠」である。実に1343項目の話に及んでいるという。その話の中の一つが、武士は何をなすにも「全力主義」であるということだ。いくつかを紹介しよう。
 「紙を書き破ると思うて書くべし」
 字を書くには、紙いっぱいに紙を書き破るくらいの気持ちをもって筆をとれ。うまい下手などは問うことではないと言っている。つまり、うまく字を書こうとすることよりも、一生懸命全力で書くという気概、気持ちを持つことがよい字が書ける基だと言っている。
 「権現様(徳川家康の尊称)一枚紙の事」
 ある時、家康公がお墓参りの折に鼻紙を一枚取り出して腰にはさみ、手洗いの時に手を拭くために用意していたが、その時、風が吹いて鼻紙が飛んで縁の方へ落ちた。家康公は走り寄って紙を拾い手を拭いた。その様を見ていた諸大名たちが密かに笑った。すると、家康公は「皆の者は、今の仕方を見ておかしいと思ったようだが、私の天下はこの様にして取ったものだ」と言ったという。つまり、一枚の紙も大切にする。一つ一つのどんな小さな事でもないがしろにしない全力
主義が大業を成すことにつながる道であると言っているのだ。
 「大雨の感(しん)と云う事あり」
 途中でにわか雨にあい、濡れまいと思って道を急いで走り、軒下などを通っても、濡れるときには濡れてしまう。初めから覚悟して濡れてしまえば苦にすることはない。どっちにしても濡れることは同じだ。このことは万事にわたる心得であると言っている。どうせ濡れるものなら初めから濡れてしまえば怖いものはなくなる。濡れまいと思うからあれこれ悩み中途半端な行動になるということだ。その他にも「葉隠」は今の世に通じる教訓がたくさんある。
 私は思う。よく「ゆとり」という。しかし、はじめからゆとりや余裕をもって物事を進めても、ゆとりや余裕が出るはずがない。全力で物事にあたりその後に至ってゆとりや余裕が出るものなのである。今年は全力主義で物事にぶつかっていこう。諸君よ、全力主義の気概をもって物事にあたれ。
(平成17年度1月)

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