式辞
卒業生諸君、ご卒業おめでとう。校庭の木にもあちこちで芽吹きをはじめ、草花の開花がそこここに見られ、春の訪れを告げているこの佳き日に、公私ともにご多忙の中を、川口市教育委員会秋山恵子指導主事様をはじめ地域のたくさんのご来賓の皆様のご臨席を賜り、ここに盛大に第55回卒業式を挙行できますことは誠にありがたく、慈に感謝申し上げ心から御礼申し上げます。
さて、卒業生諸君。君たち第 期生は、私が校長として初めて送り出す卒業生です。
私にとっては、誠に記念すべき卒業生であり、感慨深いものがあります。
諸君との、この一年間の思い出は、語り尽くせないほどたくさんありましたが、その中で、私がとてもうれしく、感動したエピソードを二つほど紹介しましょう。
一つは、ついこの間の出来事です。公立高校一般受験の発表の三月五日のことです。その子は、推薦でもうすでに合格していたのですが、その子が涙を流して泣いているのです。心配になった私は、その子に「どうしたのか」尋ねました。そうしましたら「友達が希望の学校に落ちてしまったので悲しい」と泣いているというのです。
私は、この子の姿を見て何を感動したのかというと「友のために涙を流せる」その感性や、自 分の失敗の悔しさだけでなく、人の失敗を残念に思えるその優しさに、とても感動したのです。
二つ目は、三年生の諸君に受験の準備のために行った校長面接でのことです。例の通り「君は どこの高校へ行きたいのだね」と尋ねると、「○○高校へ行ってコンピュータの勉強をして、コンピュータ会社に勤めたいのです」とその子は答えました。すばらしい答えだけど、「どうして そのような希望を持ったのですか」とさらに尋ねると「ここまで僕を育ててくれたお母さんを早 く楽にしてあげたいからです」と真剣な眼差しで答えてくれました。母への感謝の気持ちはもちろん立派ですが、何よりも「家族のために汗を流そう」というその心持ちに、私はいたく感動したのです。そのとき、私の胸に熱いものがこみ上げてくるのをおぼえました。
卒業生諸君、君たちの心は育っています。そして、澄んでいます。
諸君の卒業にあたり、もう一つお話しさせていただきます。私は、君たちが住んでいるこの日本の国が大好きです。しかし、大好きなこの国が最近心配で仕方がありません。
なぜならば、大人をはじめとして自分さえ良ければ良いという利己的な考えが世の中に蔓延していると思えるからです。
児童虐待、毎日のように報道される殺人事件、凶悪犯罪、詐欺事件、青少年の非行等あげたら、きりがありません。諸君は今の日本の現状をどう思いますか。
ご存じのように、幕末の「安政の大獄」で、当時、国のために良かれと思って言った意見が、井伊直弼大老の逆鱗にふれ処刑されてしまった、医者であった橋本左内は、弱冠14才で執筆した「啓発録」という本の中で「稚心を去る」と言っています。
つまり、子供っぽい甘えた心を去ろう。いつまでも幼い心のままでは成長しないぞと、自分に言い聞かせているわけです。諸君も同じ14、15の世代です。「稚心よ去る」という心構えをもって、世の中のことや、世の中をどうしたらよくすることができるのかといった、世の中や自分のことを考えられるようなスケールの大きい人間になってもらいたいと思います。そして、行く末は、この国を、諸君の手でもっともっと良い国に作り上げ、そして、世界人類に尽くせるような人材に育って欲しいというのが私の願いであり夢でもあります。
学問とは、学んだことをひけらかすのではなく、学んだことを人のために役立てることなのです。
諸君「友のために涙を流し」「家族のために汗を流し」「国や人類のために尽くせる」優しく大きな人材に育っていってください。
保護者の皆様、お子様のご卒業、衷心よりお祝い申し上げます。
お子様の成長をみて、私がこれだけうれしいのですから、保護者の皆様は、その喜びもいかば かりかと拝察申し上げます。
この上は、本校で培った力を十二分に伸ばしていただき立派な人材にそだつことを心からお祈り致しております。併せて、今まで、本校の教育活動に際しまして深いご理解とご協力に感謝申し上げます。
終わりに、重ねて卒業生諸君の本校卒業を祝福するとともに、本日ご列席を賜りました皆様のご健勝を御祈念申し上げまして、式辞とさせていただきます。
平成16年3月15日
川口市立青木中学校 校長 坂本 大典
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