「豊かなる世に生きながら退化する 知らず知らずに耐える心身みが」

 「車がほしい。」「ダメだ。」「友達の父親は、買ってくれたぞ。」「その友達の父親と俺は考えが違うんだ。」学生の分際で贅沢言うな。歩け、電車に乗っていけ。」「よし、わかった、ローンを組んで、自分で買うよ。」「お前、そんなに余裕があるなら、もうお前への援助はすべて打ち切りだ、食事から住む所、電話代、学費まで。何、甘たれてるんだ……。」
 この父親は、厳しく息子を説諭したが、今の子の世代は学生に車を買い与えるのか、それがあたり前なのか。(勿論各家庭によって様々であろうが。)愕
然とした。しかし、内心買い与えてやりたいという甘い親心も片隅にはあった。ある親子の会話からである。
 時代は高度の科学技術と共に進歩し、文明は進化している。しかし、文明の進化と共に人間の心と体は、退化してきているのではないか。今日の文明の恐るべき弊害によって人間が甘やかされてしまった。人間も自ら甘えてしまって、自己を鍛えるということがだんだんなくなってきて
いる。
 たとえば、こんなことが言える。寒いと毛根がキュッと引き締まる。人体は寒さに対して、「さあ来い。」と反応する。逆に暑いと毛穴を開いて発汗する。これは人体が自然に挑戦と応戦。挑発と対応でできているからだという。言い換えれば、人間の体そのものに冬は暖房、夏は冷房装置がついているという。しかし、文明の発達と共に人工的に暖房・冷房が施され、本来の人間のもっている機能が不要になってきて、知らず知らずに人体の機能が衰退化してきている。
 植林をするのに、良い土壌の所に豊かな肥料をやって、苗木を植えても、強い苗木はできない。いたずらに苗木が伸びて、風水害や虫害に弱く、使い物にならない木になるという。美材を育てようとしたら、苗木の時期に少し地味の悪い所に密植し、根同士が生存のために闘うと生の力が強くなり、そして、良い時期に肥料を与え、分植するとぐんぐん伸びるそうだ。
 文明の進化と共に、人間の精神も比例して、進化するものであるはずなのに、他方人間の精神や体は退化しているといえるのではないか。このままではいけない。子どもたちの心身を鍛えなければ。
 最近、よく聞く言葉がある。「子どもの心が傷ついた。」と。もちろん、意図的に傷つけてはいけない。しかし、思春期の子どもは、傷つきやすいのである。友、部活動、恋の悩み、体の悩み様々あるだろう。傷ついて傷ついて、それを乗り越えて強くなり、大きく成長するのである。その傷ついている子の姿を見つめ、見守り、成長を見届けてやるのが、我々大人の使命ではないかと思う。傷ついたものは、必ず強く成長し治る。
自力で、傷ついた心を、傷ついた体を、癒し、治す、強い人間を育てていきたい。その為に、我々教師、保護者、地域の皆様と一致した思いの下、手を携えていきたいと考えている。これは、将来ある子どもを考えると切実な問題であると思う。
(平成16年度11月)
 

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