「湖に 浮かぶ国土の 国民(くにたみ)が  必至に懸ける 教育への道」

 上空から国土を見わたすと、多くの湖を見ることが出来る。今まで見たこともない見事な景色だ。湖に沿った道路を1台の車が走る。別の湖にぶつかると、そこには橋が架けられ道路は湖から湖へと繋がっていく。ユバスキュラに着いた。湖の向こうにどこかで見た記憶があるような光景が目に入る。森の中にある赤い屋根の一軒家だ。確か子どもの頃に絵本で見た。こんなところにあったんだ。子どもの頃の懐かしい思いが彷彿としてきた。ここはフィンランド、国土の75%は森林。白樺の木が美しい。そして、10%は湖や川などの湖水地帯となっている。
 昨年度と本年度の2年間。川口市とフィンランド国の教育研究事業で、本校は舟戸小と芝中央小と共に委嘱を受けており、5月3日〜7日の5日間坂井主幹教諭とともにフィンランドを訪問し、ユバスキュラ大学付属小学校及び中学校を視察した。まず驚いたのは中学生の女子が化粧をし、ピアスを耳や鼻、口にしていること。授業中に鼻をかみに出歩くこと。教師に対して机に両肘をついて質問をすること。我々訪問者に対して廊下ですれ違っても挨拶をしない。教師は何のこだわりもなく授業をすすめていた。文化の違いを目の当たりにしたが、その子どもたちが授業ではすばらしい学習をする。発表力があり自分がどうしてこういう考えに至ったのかを、堂々と発表、説明をすることができる。そして、各班での学習では、わからない子に丁寧に教え学び合っている。フィンランドの子どもたちの能力の中で、特に論理的にものを考える能力が優れていると思う。そして、その能力を育成するために、授業において習慣化を常に意識し、家庭学習も習慣化されている。
 以上のようなフィンランド教育を参考に、今年度本校では伊藤教諭と穂谷野教諭が理科と数学において2回にわたって研究授業を実施した。その中で、特に、「子どもたちに論理的な考え方とその考えをどう相手にわかりやすく伝えるか。」という育成方法について授業展開を行った。そして11月16日(火)にキュポ・ラ4階のフレンディアにおいて、フィンランド国ユバスキュラ大学教育学部ヴィーリ教授とともに、川口市教育委員会のご尽力により日本とフィンランドの教育に関わるセミナーを開催し、市内外の教員、そして川口市民を対象に、2年間の研究発表を行った。今後、これまでの研究成果をさらに深めていきたいと考えている。
 フィンランドはPISA調査、OECD(経済協力開発機構)が3年ごとに主催する学力調査で、日本も含む50数カ国の参加国の中で常にトップの位置にいる国であり、人口はたった530万人。埼玉県よりも人口は少ない。国土は日本よりも少し小さい。その国が将来フィンランドを担う子どものために、国づくりとして国家をあげて教育に取り組んでいる。国民一人ひとりに生きる力をつけさせるために力を尽くしているのである。フィンランドはロシアの隣に位置している。1917年ロシア革命が起こったその年にロシアから独立宣言をしている。帝政ロシア・旧ソ連・ロシアの脅威にさらされながら、民主主義・社会福祉国家体制を標榜し、それを守り、教育によって国を豊かにしていこうとするフィンランドの意気込みには凄まじい迫力を感じた。フィンランド人の国民性はどこか日本人とよく似ているという。人の国の領土を自分の領土と言ったり、人の国の領土を奪って返さなかったり、そのような国民性ではない。信義を重んじる。優しい国民性である。日本の国の行く末がこのままでは心配である。教育もそうだが、国の指針もフィンランドを参考にしたらどうだろう。
(平成22年度12月)

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